歩く | Mercedes's Diary

歩く

 失恋した。

その日から1週間ほど、仕事帰りに歩いて家まで歩いて帰った。約2時間の道のり。

急に“歩いて帰ろう”と思いついた。

恋しい人を思ったり、泣いたり、そんな事はしなかった。以外にもその2時間は楽しいものだった。

 3月初めの強い風よりも少し早く私は歩いた。でも風は私に追い付き、そして少しだけ暖かい風になり、私の体を包んだ。

見上げる事を忘れていた空を見た。青い空に浮かぶ雲は、私を笑わせ様と妙な姿に変身する。私はつぶやく。

「・・・へんなの・・・」

いろいろな色の、いろいろな形の車、いろんな表情のドライバー。そして、行き先を決めていない旅人の様な、バスの窓から見えた乗客たち。

歩くテンポに丁度合う歌を探す。

頭の中でジュークボックスに向かい、曲のボタンが並んでいる辺りの両端に自分の両手を置いて並んだ曲目に目を走らせる。そして曲が決まるコインを入れ、その曲の番号を押す。

シンプルなギターの音色で曲が始まる。

―サイモン&ガーファンクル- 『4月になれば彼女は』

歩きながら数回歌う。そして、思う。“明日は何の歌にしようかなぁ・・・”

 家にたどり着くと、時刻は蒼い時。その色で体全身を染めてほんの少したたずむ。

その色に恋をする予感を感じながら、家のドアを開ける。